大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和52年(ワ)1789号 判決

原告

鵜沢治夫

被告

菊池運輸株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは原告に対し、各自一、二〇四万九、〇三八円とこれに対する昭和五〇年一〇月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は三分し、その二を被告らの、その余を原告の負担とする。

四  この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは原告に対し、各自一、八七七万〇、二二四円とこれに対する昭和五〇年一〇月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第一項につき仮執行宣言

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 昭和五〇年一〇月二日午後六時、千葉県茂原市上茂原三九四番地の二先交差点で、被告富沢が運転するトラツク(千葉一一あ一、八九七号)が茂原市街方面から上茂原方面へ進行中、原告に衝突し、原告を負傷させた。

(二) 原告の傷病

原告はこの事故で頭蓋骨々折、前頭葉損傷、両手両膝打撲挫傷等を負い、その直後から昭和五一年一一月二五日まで四二〇日間入院、治療を受けたが、終身労務に服することができない程著しい精神の障害が残つた。

2  被告らの責任原因

(一) 被告会社の運行供用者責任

加害自動車を所有し、その営業のため運行の用に供していた。

(二) 被告富沢の過失

被告は制動装置が不良のまま運転したか、前方に対する注意を怠るかして、指定速度時速四〇キロメートルに従わず六七キロメートルで走行させた過失がある。

3  損害関係

(一) 入院雑費 二一万円

一日五〇〇円の割で四二〇日分

(二) 付添看護費 八四万円

入院期間中介護の必要があつたため、原告の妻が昼夜、付添看護した。一日二、〇〇〇円の割で四二〇日分

(三) 休業損害 一六五万三、四〇〇円

原告は一四か月の入院期間中働けなかつたが、事故前は農業に従事していたほか、農閑期には建材会社に勤務し、その月収は年齢別平均給与月額一一万八、一〇〇円を下らなかつた。

(四) 入院慰謝料 一六九万五、〇〇〇円

(五) 後遺症慰謝料 一、一七五万円

(六) 労働能力喪失による逸失利益 七〇七万二、〇四七円

基礎所得月額一一万四、八〇〇円、労働能力喪失率一〇〇パーセント、労働可能年数六年、中間利息控除ホフマン式

(七) 終身介護費 五七九万九、七七七円

原告は食事、用便その他常に終身、家族による介護が必要である。家族介護費一日二、〇〇〇円、余命一〇年、現価換算ホフマン式

(八) 損害のてん補 一、一七五万円

後遺障害分として自賠責保険から一、一七五万円を受領した。

(九) 弁護士費用 一五〇万円

4  まとめ

よつて、原告は被告ら各自に対し、不法行為に基づく損害賠償金一八七七万〇、二二四円とこれに対する不法行為日の昭和五〇年一〇月二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実のうち、(一)の点は認め、(二)の点は知らない、2のうち(一)の事実は認め(被告会社)、(二)の事実は否認する(被告富沢)、3の(一)ないし(七)、(九)の事実は知らない。

三  抗弁

原告にも、飲酒したうえフラフラと自転車を運転し、加害トラツクの直前で右折した過失がある。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  交通事故の発生

1  請求原因1(一)の事実は原・被告ら間で争いがない。

2  原告の傷病

成立に争いがない甲第二ないし第六号証によれば、原告はこの事故で、左側頭部打撲・挫創、左側頭骨々折、脳挫傷、頭蓋内出血、両手・両膝打撲・挫傷、右下腿打撲傷を負い、直ちに君塚病院に入院、そのご清水脳神経外科に転じ、昭和五〇年一一月六日から昭和五一年一〇月二五日まで両院を通じて三九〇日間入院し、そのご症状固定と診断された昭和五二年三月一五日までに六〇日通院したこと、原告は前頭葉に受けた損傷によつて性格変化をきたして多弁多動、虚言命令的など精神運動性亢奮状態を呈していること、右の症状は強力な薬物療法を施すことによつてある程度抑制できるが、尿失禁、言語障害、歩行障害、感情失禁、指南力低下があつて正常な判断能力に欠け、入院中は勿論、およそ終身にわたり常時、身のまわりの介護が必要とされる状熊で、ましてや就労できるようになる望は途絶えたことが認められる。

二  被告らの責任原因と原告の過失

1  被告会社の運行供用者責任

請求原因2(一)の事実は原・被告間に争いがない。

2  事故の状況と原因

成立に争いがない甲第七号証の一、二、被告富沢本人の供述によれば、本件事故現場付近で、東(茂原市西町方面)西(長生郡長南町方面)に直線状に走る幅員五・六メートル(中央線が設けられて、追越しのためのはみ出しが禁止されている)のアスフアルト舗装道路に対し、北方(原告の住居がある茂原市長谷方面)へ伸びる幅員四メートルが交差していること、現場道路には右側が二五メートル、左側二四・二メートルある二条のスリツプ痕が印象され、東端のできはじめでは中央線を間にはさみ、西方に行くに従つて二条とも中央線を超えて道路右側端にはみ出すところまで右斜めに直線に走つていること、実況見分時の実験結果では加害トラツクのブレーキの利き具合はよくなかつたこと、被告富沢は東方から西方に向つて時速四〇キロメートル余で進行中、先行車のライトに照らし出された原告の自転車に気付き、先行車が右側へふくらんで追越していつたのに続いて、対向車がなかつたことから反対車線にはみ出して追越そうと加速しながらふくらみかけたさい、右折しかかつた原告と衝突の危険を感じて急停止措置を講じ、その地点から二六メートル滑走したところで、加害トラツクの左前部バンパーを自転車の右側支棒付近に衝突させたこと、自転車はかなりゆつくりした速度で走つていたことが認められる。右事実によれば、被告富沢は加害トラツクの制動機能が不良で、しかも自転車との距離が相当あつてその動向の見究めをつけるには早すぎ、速度に応じて必要かつ十分な側方間隔も確保できない状況にあつたから、適切な速度に減じて進行すべきであつたのに、むしろ加速して追越そうとした過失(被告は、道路左側から五〇センチメートル内側を走つていた自転車が一七・二メートル後方に接近したとき急に右折してきた旨述べるが信用できない。かなりゆつくり走つていたという自転車を追越すのに加速したという点からすると、別に対向車もなかつたのだから、むしろ、被告は自転車の動向を察知して先回りして追越そうとした見方もできないわけではない)がある。たゞ、原告にも右折の過程で加害トラツクの接近加減に対する注意の払い方に足りなかつた点があり、一割の過失相殺を適用するのが相当である。

三  損害関係

1  入院雑費 一九万五、〇〇〇円

一日五〇〇円の割合で三九〇日分を相当と認める。

2  付添看護費 七八万円

弁論の全趣旨によれば、原告の妻が付添介護したと推認でき、一日二、〇〇〇円として三九〇日分を相当と認める。

3  逸失利益 七五〇万四、六五九円

成立に争いがない甲第八号証、弁論の全趣旨によつて真正に成立したと認められる甲第九号証の一ないし四によれば、原告は明治四二年七月二七日生れであること、妻や長男夫婦と共同して農業を営んでいたことが認められる。公刊されている賃金センサスに照らすと、原告の昭和五〇年度所得を月額一一万四、八〇〇円と推定して不当ということはない。

(一)  症状固定時までの分 一四九万二、四〇〇円

基礎月額一一万四、八〇〇円として一三か月分を相当と認める。

(二)  症状固定ごの分 六〇一万二、二五九円

基礎月額一一万四、八〇〇円、労働能力喪失率一〇〇パーセント、残存就労可能年数を五年として、ホフマン式により逸失利益の現価を換算するのが相当である。

4  慰謝料 一四〇〇万円

既述の事情を考慮すると原告が蒙つた精神的損害の額は一、四〇〇万円と算定するのが相当である。

5  終身介護費 三一八万五九三九円

既述の病状によれば、原告は終身、介護を要すると推認される。関係事情を考慮すると、家族介護費として一日二、〇〇〇円の割合で五年分につき、ホフマン式により現価換算した額を本件事故による損害として相当と認める。

6  過失相殺した損害額 二三〇九万九、〇三八円

7  損害のてん補 一一七五万円

請求原因3の(八)の事実は原告が自認するところである。

8  弁護士費用 七〇万円

原告が訴訟代理人に支払うべき費用のうち七〇万円を本件損害として相当と認める。

四  結論

よつて、原告の請求は被告ら各自に対し、不法行為に基づく損害賠償金一、二〇四万九、〇三八円とこれに対する不法行為日の昭和五〇年一〇月二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却する。民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条

(裁判官 龍田紘一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例